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空虚な「あなた」の羅列と、許されない土壌 [考える]

空虚な「あなた」の羅列と、許されない土壌

例えば知り合いの葬儀に行ったとしよう。
葬儀会場に着いても、故人の名前はおろか、遺影すらなかったとしたら、かなり驚くと思う。
一体だれの葬儀なのか、何のための惜別の儀なのか、おおよそ見当がつかない。

昨年のきのう未明、神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」での
痛ましい事件が起きて、1年がたった。
いまだに初公判さえ行われていない異例の事態の中、
神奈川県などが主催した追悼式が行われ、祭壇に遺影も氏名もないままだったという。
20170727津久井やまゆり園.jpg
二次差別を防ぐ狙いがあるとのことだけれど、私には大きな違和感を覚えた。
この世に生を授かり、同じ国で生活を共にしていた人々が、
死ぬときにまで秘匿されなければならないほど、この国のモラルは低下してしまったのだろうか。
黒岩知事は、この事態について
「日本の現状では許される土壌にないと感じ、県独自では(オープンに)できなかった。
とても残念だ」と語ったという。

たしかに土壌が成熟していなければ、差別の拡大再生産をもたらすかもしれない。
でも、この事件の特異性をよりオブラートで包み隠してしまったら、
この手の犯罪が減ることなんてないのではないかと思った。
とても難しい兼ね合いかもしれないけれど・・。

黒岩知事は、聞き取り調査を経て、亡くなった19名の「エピソード」を発表した。

・新年会で和太鼓演奏を楽しんでいた、あなた
・風邪をひかないよう気をつけていた、あなた
・寒い冬のラーメンを楽しみにしていた、あなた
・家族と一緒においしそうにおすしを食べていた、あなた
・満開の桜の中で甘酒を楽しんでいた、あなた
・お天気が良い日の日なたぼっこが好きだった、あなた
・さくらんぼ狩りを楽しんでいた、あなた
・行事でご家族と一緒においしいお弁当を食べていた、あなた
・小学生と二人三脚をがんばった、あなた
・すてきな作品づくりをしていた、あなた
・お母様からすてきな水着をもらって喜んでいた、あなた
・とても我慢強くて笑顔がすてきな、あなた
・じゃがいも掘りをがんばっていた、あなた
・夜空を彩る花火を仲間と見上げていた、あなた
・盆踊りの炭坑節が好きだった、あなた
・家族からの誕生日プレゼントを楽しみにしていた、あなた
・お祭りの屋台が大好きだった、あなた
・大みそかの年越しソバを楽しみにしていた、あなた
・いつもご家族と新年を迎えていた、あなた


――「あなた」という二人称が空虚に見えてならなかった。
そこに、両親が大いなる希望を持って名づけた「名前」や、
生き生きと施設で楽しんでいた近影がせめてあれば、
これらの「エピソード」が躍動的に可視化され、
特異とされる事件の核心を私たちに刻む十分な情報になるのではないかと思った。
そして、この異例の配慮こそが、元職員の被告の狙い通りになっている気がしてならない。

被告が1年たっても、当時と同じ主張を繰り返しているという報道があった。
この事件は、特異で異常な性格の男がたまたま引き起こしたものではない。
どこでもだれでも、起こし巻き込まれるべき事件だという認識がなければ、
第二第三の蛮行が繰り返されてしまう。
とても厳しいけれど、そのためにも真相を明らかにすることしか、防御のすべはないと思う。

「あなた」が羅列された「エピソード」を前に、1年前に記した文章を思い返してみた。
私たち社会に突き付けられた刃(やいば)の、金属的な鋭さ、冷たさを改めて自問してみる。
1年たってもなお「許される土壌ではない」という社会の、冷酷なまでの遅さ。
そして、なにひとつ変わっていない、自分の中の砂を噛む不快な感触が最後まで残った。


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懸命の命と、心の闇
(2016年7月29日付記事)


ここ数日の記事を掲載しながら、
本当にこれでいいのかと自問自答しつつ、多忙にかまけて記事化しなかった出来事がある。
悔しくて辛くて憤ることがある。

26日未明、神奈川県相模原市で――と書きかけて、
おそらくすべての人々が思うあの出来事が。

2つのエピソードがある。
数年前、ある家族と一緒に食事をした。
昔から親交のある、とある障害を持つ娘さんとそのお母さんとだ。
十数年ぶりの再開、だから親交なんて言えるスパンを超越しているかもしれない。
でも、その当時は濃密な時間を過ごした記憶は、私はあるし、
相手も持ってくださっていると思う。
さまざまな話の中、いまも徒歩で自宅から、作業所に通って仕事をしているという話。
いやあ立派だねえ、雪の日も行ったの?などと、軽快な話に終始した。
自分の仕事の話になり、ふと
「いやあ、私の仕事を時給換算すると、最低賃金を大幅に下回るんですよね」と言ったとき、
彼女の母親がさりげなく、でも確固たる表情でこう言った。
「○○ちゃんの時給は、それよりもずっと低いんですよ――」

私は、とんでもないことを言ってしまったと、その発言を悔いた。
健常者、障害者という「区別」をする気は毛頭ないけど、
自分の心の奥底に、とんでもない差別をする思想があった。
彼女たちは表面上、私と一緒にいる時間を楽しんでくれているようだったけど、
私にとって痛恨の出来事で、どんな言い訳もできないと思った。

もう一つのエピソードは、まさに例の事件の直後の話である。
中1になった甥っ子1号が、学習塾から出された宿題を一緒にやっていた数日前。
国語で、ことわざの意味の理解という単元だった。
五十音順に「あ」からいろいろなことわざがあった。
「い」に入り、「犬も歩けば棒に当たる」「一寸先は闇」などの中で、
「一寸の虫にも五分の魂」ということわざの説明。
私はふと、そばにある、例の相模原の事件が掲載されている新聞記事を指して、
「ね、この事件で殺傷された人たちは――」と言いかけて、言葉を飲み込んだ。

あろうことか、私は、事件で亡くなったりケガをした人たちを、
「一寸の虫」と例えようとした。
もちろん、そんなつもりは毛頭ないことを思いつつ、
もしかしたら自分の中に、彼ら彼女らをさげすむ思いを持っていることを感じた。
恨んでも恨んでも恨みきれない、あの男の主張と、なんら変わらないじゃないか。

刺青をして、髪を染めて、障害者はいなくなればいいと主張し、
三権の長に直訴しようとし、
それでもなお済まずに、未明の施設に侵入し、狂気の沙汰を繰り広げた男。
その一切を認めることはないと思いつつ、その一片を自分が持っていることに愕然とした。
私はこの男を、批判する立場にはないのではないかと。

もちろん、この男の主張はまったくもって肯定できるものではない。
どんな命にも、懸命の命があって、その命の誕生を祝い、
その命を長く過ごしてもらいたいと思う肉親や近隣の人、
一緒に生きていく人たちの思いがある。
そのかけがえのない、必死の命を、
独りよがりの短絡的な思想により、カットアウトすることは許されない。

でも――。
自分の胸に手を当てると、その思想を100%否定できる自分が
果たしているのだろうかと思うと、とても残念ながらないのかもしれない。
亡くなった人、ケガをした人の氏名が明らかにされない、異常な事件の中で、
「死者は○○さん」ではなく「死者19名」と、命を数字に置き換えた報道の中で、
私の心は、じゃりじゃりと砂を噛んでいる思いがした。

特異動向、薬物行動、偏向思想など、刑事事件を問えるかが不安定なこの男の蛮行。
「戦後最悪」とよばれる事件。
おそらくは、極刑を言い渡されるか、一生シャバの空気を吸えないまま病院に幽閉されるか。
そのいずれしか、現行の法制度では裁くことのできない案件になるだろう。
断罪されるべきだし、法治国家を反故(ほご)にしてまでも、
この男に私的制裁を加えたいとすら思う。
それがもし、この男の命を奪うことになったとしても、おそらくは世論が是認すると思う。

でも再び、自分の胸に手をかざし、この男の一方的で短絡的な思想を反すうしてみたい。
自分に、この男の言い分を、100%否定するだけの確固たる信念があるのか。
もしかしたら、私たちの心の奥底に、実は男を否定できない「闇」があるのではないか。
その闇が、いつか表に出てくることはないのだろうか。
そう思うと、この事件は、少なくとも私にも刃物を突き付けられたのだと言える。

法治国家である日本を、この事件で悔いた。
19人の、懸命に生きる命を自分勝手な思想で奪い、数十人のけが人を招いた。
数百人の関係者を、絶望のどん底に陥れ、数千・数万という人々に憤りを感じさせた。
その報いが、屁のようなこの男の命を奪うしか、現行の刑事制度にはない。
あまりに不条理で、あまりに格差がある。
――ただし、この男を断罪する自分に、100%の自信が持てない。
砂を噛むじゃりじゃりとした音が、奥歯のまた奥に聞こえる。

この男のたわごとと称する動画を、テレビのニュースは繰り返し報じる。
正視できない。
慄然(りつぜん)とする狂気の沙汰に目をそらすと同時に、
あの男の向こうに見える、ブラウン管に映った自分の心の闇もまた、目をそらす。
でも目をそらしてはいけないと、言い聞かせる。
そうでなければ、不条理に命を落とした彼ら彼女らの、懸命の命があったのだから。

いまはただ、亡くなった方のご冥福をお祈りします

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